ゆるゆる企画6月
「愛が溢れ過ぎた小玉、馬に乗る」
ここからは練習場を出て外を歩きます。
舗装道路を歩くとカポリカポリと蹄のいい音がする。
すぐ横を車が通っても悠然と歩くトレジャーはかっこよくて惚れそうです。
人の1歳は馬の3歳と聞いたことがあります。だとすると、トレジャーは63歳。お、大分先輩なのね。みえないけど。ツヤツヤだし。
なるほど、だからこの余裕なのか。
ふと、舗装された道路を車と一緒に歩く光景に、岐阜県の羽島市にある笠松競馬場を思い出す。
小さい頃に、並走する馬を車の中から見上げてたけど、当時の笠松競馬場ということは、あのスター馬とニアミスしたこともあったんだろうなぁ。
しばらく公道を歩いた後、田んぼのあぜ道へ進路を変更。
「小玉さん、こっから気をつけてくださいね〜」
あ、はい。
でも大丈夫、ちゃんと乗れてますよ?
「小玉さん、あやしいですから〜」
え、どこがですか?安定してますよー、余裕ですって、
「危険な動きしてますからね〜」
いやいや、ちょっとお待ちよ先生、
いたって穏やかですよほら。
見てください、私とトレジャーはもはや一体化したのひとつの生命体となって意思疎通をはか
ガッッ!!
なに⁈思いっきり引っ張られましたが…
「引いて引いて!」
え⁈何を⁈
「手綱を引いて!」
手綱の先を見ると、トレジャーがあぜ道の草を物凄い勢いで食んでいる!
なななんて力だ。
よっぽどお腹が減っていたのか…その貪り度合いにこのまま思う存分食べさせてやりたい衝動に駆られたが、先生曰く、このままにさせていると言うことを聞かなくなるようなので、
ごめんよ、全力でいかせてもらう…
ぐ…
が…
つ、強い!強すぎる!さすが全身筋肉!
63歳、衰え知らず!
先生、勝てる気が全くしませ…
「首に鞭入れてください」
鞭?あ、ずっと持たされてたコレ?
これをこう?
この先1時間弱の主導権が懸かっていたので、躊躇することなくトレジャーの首元にピシリと。
するとけっこうすんなりと言うことを聞いてくれました。
なるほどこの為かっ!
言っておいて先生ー!
トレジャーくん、
いや、トレジャーさん、
トレジャーおじさん、
おとなしそうな顔してやってくれるわね。
初乗馬で、穏やかな顔して実はずる賢い、食欲旺盛なおじちゃんとペアになるとはね。
トレジャーよ、ここからはもう容赦はせん。
人間を甘く見た罰だ私が乗っている間は二度と草を食めると思うなうはははさぁ歩け歩け、
なんだ耳など倒して反省でもしているのかふふん、可愛いヤツめ。可愛いヤツめ…かわいい///…。
森の中を歩く。
今まで体験したことない高さで歩く。シンプルだけどとても不思議。
そして、森の中の小径は、ぬかるんでいたり、岩でできていたり、登りだったり下りだったり。そのたび、そっと歩いたり、足場を確かめながら歩いたり、一生懸命力を込めて歩いたり。またがっている背中から全部伝わってくるのが本当に愛おしく感動的で。しばらくぼうっと身を任せ…
「食べてますっ」
うぉっとトレジャー、そうでした。
森の中は緑一面。誘惑だらけでした。
「じゃあ、走ってみますか」
よし、いよいよ次のステージへ。
さ、先生、どんな姿勢でどう乗りましょうか
「じゃついてきてくださいねーー
あぁあここもノーレクチャーなのね。あぁあ走りだしたし、
あがががが
ごごご
おごごごごご
「はい、止まりましょうー」
…おぉ、
なるほど…。
普通に座っているのは無理ってことですね。
スピードよりもなによりも振動がすごい。
ここでようやく腰を浮かせたり沈めたりの乗り方をレクチャー。
でも、リズムとタイミングは馬によって全然違うのだそう。だからあとは馬にとことん合わせていく事を目標にとのこと。
確かに、恐る恐るだけど、その乗り方で走ってみると振動はそれほど気にならない。
だけど、トレジャーのリズムにバッチリ合っていない感じが、なんだか双方の負担になっている気がしてもどかしい。乗馬の奥深い部分ってここのところかしら。うん、これは難しいし楽しい!
何度か走っていると、たまに全くストレスを感じない瞬間がある。その瞬間は筋肉の負担をまったく感じなくなり、心なしかトレジャーの足運びも軽やかな感じがした。
この感覚、デジャブ…
いつだっけ…去年の冬くらい…
あ!
X-QUEST公演だ!
殺陣未熟者の小玉が、X-QUESTの殺陣魔人塩崎こうせいとタイマンでバトルするオープニングだ。
稽古中は、必死に師匠についていくのが精一杯で、一回通すとブラックアウト寸前くらいにまで疲労してしまって。
これで本番いけるのか…久々の不安と戦いながら、しかし師匠のすこぶる気の利いたアシストでなんとか仕上げての本番、変わらず全力で死ぬ気で挑んでいたのに、ある日のある回、まったく疲労を感じない瞬間があって。いつもと一緒なのに疲労しない!その上師匠の動きがいつもより見えるし優雅に感じる!
なんだったのかしらと師匠に尋ねてみたら、
「あのね、息が合ってるとね、全然疲れないんだよ」
へえええ!
メカラウロコ!
これだわ。
長くなったがこれだった。
師匠、あの時師匠と分かち合えたシンクロを、今、小玉は馬と成し得ております!
種を超えて分かち合った感じがします師匠ー!
そんなこんなで楽しい時間はあっという間。
お別れ前に、二人の記念写真を撮ってもらいました。
見てこれ!トレジャーと同じ顔もといおんなじポーズしてる!
ありがとうトレジャー。おじさんなんて言ってごめんね。
初乗馬があなたで本当に良かったよ。またね。
乗馬経験者のみんなに、次の日、下半身の筋肉痛に覚悟しなさいと脅されておりましたが、
下半身はそうでもない。しかし、なぜかどうにも右腕があがらず。
なぜだろうとよくよく思い出してみると、どうやら、道草トレジャーを全力で阻止しようとした時のもののよう。馬力って本当にすごいのね。
そして次はもっと走りたい!
風を、切りたい。
なので、また会いにこよう。
そして、数日後、母から送られたこの写真、
私、初乗馬じゃなかったのねーー!!